東京地方裁判所 昭和42年(ワ)8784号 判決 1969年2月17日
主文
原告に対し、被告黒川隆は金九二万四、九〇〇円、被告飯田邦生は金二八万円およびそれぞれ同金員に対する昭和四二年八月二五日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを四分し、その三を被告黒川の、その一を被告飯田の各負担とする。
この判決第一項は、原告において被告黒川に対して金三〇万円、被告飯田に対して金一〇万円の各担保を供するときはそれぞれの被告につき仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は「原告に対し、被告黒川隆は金一、一四万四、九〇〇円、被告飯田邦生は金三五万円およびそれぞれ同金員に対する昭和四二年八月二五日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求め、請求の原因として、
一、原告は肩書地において三井不動産という名称で宅地建物取引業を営むものである。
二、被告飯田邦生は別紙物件目録(一)(二)の土地(以下土地はすべて別紙物件目録記載の番号をもつて、(一)の土地、(二)の土地の如く指称する。)を所有してこれを訴外池田サダエに賃貸し、(三)(四)の土地については持分一二分の五を共有してその地上に木造瓦葺平家建の建物二棟を建築所有し、訴外飯田元次、同武隼美に各一棟を賃貸していたものである。
三、被告黒川は、昭和四一年九月二〇日頃、原告に対し(一)ないし(四)の土地の買受けと(一)(二)の土地につき有する訴外池田サダエの賃借権の譲受けおよび右飯田元次、武隼美の借家権の譲受けについて仲介を依頼した。
四、そこで、原告は直ちに被告飯田および訴外池田サダエ同飯田元次、武隼美に対し被告黒川が右土地および賃借権譲受けの希望を有することを告げてその交渉を開始し、再三折衝を続けた結果
(一) 昭和四一年一一月二八日被告飯田は原告に対し、(一)(二)の土地は三、三平方米当り金六万円、(三)(四)の土地は他の共有者の持分を含めて三、三平方米当り金一二万円で売渡すことを承諾したものであるが、訴外武との明渡しの交渉が出来なかつたので、被告黒川は(一)ないし(三)の土地を金一、四〇〇万円で被告飯田から買受けたものである。
そして被告飯田は原告に対し右仲介の報酬として金三五万円を支払う約束をした。
(二) 訴外池田サダエは、昭和四一年一二月一日、(一)(二)の土地に対して有する借地権を合計九五〇万円で被告黒川に譲渡する承諾をなし、昭和四二年二月二七日被告黒川との間で右譲渡契約が成立したものである。
(三) また訴外飯田元次は、昭和四一年一二月一九日、前記家屋に対する賃借権を、金二〇〇万円で被告黒川に譲渡する承諾をなしたものであるが、かりに右同日に右契約が成立していないとしても、昭和四二年二月二五日に原告の仲介によつて右譲渡契約が成立したものである。
五、ついで原告は被告黒川からの仲介の依頼に基づき昭和四二年二月二七日、被告黒川が前記(一)記載のとおり買受けた(二)の土地を訴外池田サダエに代金五三三万円で売渡す契約を成立させた。
六、従つて原告は、
(一) 被告黒川に対し被告飯田からの(一)ないし(三)の土地の買受手数料として売買代金一、四〇〇万円に対する宅地建物取引業法第一七条の規定に基づく所定の報酬金四八万円、訴外池田からの借地権譲受代金九五〇万円に対する所定の報酬金三四万五、〇〇〇円、訴外飯田元次からの借家権譲受代金二〇〇万円に対する所定の報酬金一〇万円、訴外池田に対する土地売渡代金五三三万円に対する所定の報酬金四八万円、以上合計一一四万四、九〇〇円
(二) 被告飯田に対し前記約定報酬金三五万円
(三) および右両名に対しいずれも本訴状送達の日の翌日である昭和四二年八月二五日から支払ずみに至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。と述べ、証拠として甲第一号証の一ないし四、第二ないし第一一号証を提出し、証人畠山正美、同照沼康男の各証言と原告本人尋問の結果(一、二回)を援用し、乙第三、四号証の成立は知らないが、その余の乙号各証の成立を認めると述べた。
被告ら訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、
一、被告黒川は請求原因第一、二、三項および第四、五項中原告が被告黒川の依頼に基き訴外池田、飯田、武らに対し接衝を開始したこと。(一)ないし(三)の土地を被告飯田から買受けたこと(ただし買値は一、四二九万円である)訴外飯田元次に家屋賃借権譲渡の代金として二〇〇万円を支払う約束をしたことは認めるが、その余の事実を否認する。右買受および譲受けはいずれも原告の仲介によるものではなく、また訴外池田から(一)(二)の土地の賃借権を九五〇万円で譲受け、同訴外人に(二)の土地を代金五三三万円で売渡したのは被告黒川が代表取締役をしている株式会社日隆であつて被告黒川ではなく、また原告の仲介によるものでもない。
なお原告は被告黒川の依頼に基づき被告飯田の代理人泉秀次郎と前記土地売買につき交渉をし、或程度話が進行したが、昭和四一年一二月三一日値段の折合いがつかず、土地売買交渉を打切ることに右両者間で合意した。その後昭和四二年一月中旬頃になつて、被告黒川は是非とも右土地を必要としたので、代理人青山政夫をして訴外泉秀次郎との交渉に当らせ、同年二月二四日(一)ないし(三)の土地を代金一四二一万九、〇〇〇円で買受ける契約が成立したものである。
要するに原告は被告両名間の土地売買については昭和四一年一二月三一日をもつて仲介の手を引いたものであつて、被告両名間の土地売買は原告の関与がない新たな交渉によつて成立したものであるから、原告には本件土地売買契約について被告両名に対する仲介報酬の請求権はない。
二、かりに被告黒川に原告に対する仲介手数料支払義務があるとしても、被告黒川は原告との間で、昭和四一年九月頃、原告主張の仲介契約成立の際、その手数料は代金の二分とすることを約した。
従つて被告飯田との土地の売買代金は原告主張によると一四〇〇万円であるからその二分は二八万円であり、訴外池田サダエとの間の(一)(二)の土地の借地権の譲受と(二)の土地の売買は形式的には二個の契約であるが、実質は被告黒川が訴外池田から(一)の土地のみの借地権を譲受けたに等しいから、その実質的な代価は被告黒川が借地権買取代金として訴外池田に支払うべき九五〇万円から訴外池田が土地買受代金として被告黒川に支払うべき五三三万円を差引いた金四一七万円になり、これに対する二分は八三、四〇〇円であり、訴外飯田元次に支払つた立退料の二分は四万円であるから、被告黒川は以上合計四〇万三、四〇〇円の支払義務しかないことになる。
三、被告飯田は、請求原因第一、二項および第四項中原告に対し(一)ないし(四)の土地の売買仲介手数料として三五万円を支払うことを約したこと、(一)ないし(三)の土地を被告黒川に売渡したことは認めるが、原告の仲介によるとの点は否認する、
と述べた。
証拠(省略)
別紙
物件目録
(一) 東京都世田谷区深沢四丁目二八番一
一、宅地 二二二、四一平方米
(二) 同所四丁目二八番一八
一、宅地 一三五、五六平方米
(三) 同所四丁目七〇番二
一、宅地 一六八、一八平方米
(四) 同所四丁目七〇番四五
一、宅地 一三〇、三五平方米